純釣   北野勇作


 竿は拾ってきた棒とかそんなのでね、釣り針なんていらない。紐に結んどいたら食いついてくるんだから。 
 最初の餌は、草むらで捕まえた蛙で、そのままだとなかなか食いつきが悪いから、叩きにする。後ろ足を握って、びたんと道路に叩きつけるんだよ。手首を効かせてね。何度もやる。蛙の形は残ってて、でも口からいろんなものが出てきてるくらいがちょうどいい。それを餌にして水の中に放り込む。しばらく待ってるとアタリが来る。くい、くい、ってね。鋏でしっかり掴んでるからそのまま引き上げればいい。緑色に濁った水の中に鋏の赤が見えるあの瞬間が好きだったな。すごくきれいなんだ。
 釣りあげたら、そのまま地面に置いて、頭を足でしっかり抑えてから尻尾を摘まんで捻る。軽く捻るだけで、ぷちっと千切れるよ。尻尾のなくなったザリガニは、そのまま水の中に蹴り落とす。で、次からは、この毟った尻尾を餌にする。これはもう、蛙なんかとは比べものにならないくらい釣れる。すぐに来るよ。引き上げて、踏んで千切って蹴り落として、さっきまでの餌と付け替える。新鮮なほうがいいからね。あとはこの繰り返し。エンドレス。暗くなるまで、ずっとやってたなあ。あれって、何だったんだろうねえ。終わってもなんにも残らない。何がしたかったのかもわからない。純粋だよね。うん、純粋だった。純粋な釣りだったと思うよ。
 もうあんなことはできないなあ。





北野勇作
SFとか書いてます。

大喜利に参加させてもらいます。